げんちゃん、肉まんの作り方教室に行きました。
知り合いの23歳の発達障害のN君は、せいぜい中学生くらいの雰囲気にしか見えません。彼が小さいころから、お母さんともども、お付き合いがあります。
高等支援学校の寮生活から、スーパーに就職
彼は、小中を情緒の支援クラスですごし、父親の考えで、高校は高等支援学校にすすみました。卒業後は、学校があっせんしたスーパーの仕事につきました。
就職したスーパーは、パートの身分で、”障害者なんだから、それなりのことをして過ごしておいて”、という扱い。精肉売り場で、肉を準備する仕事をさせられました。仕事の内容はずっと変化せず、障害者だから、単純作業、という雰囲気だったようです。
彼をもっと成長させたい母親は、とても焦りを感じました。
それで、ママは、彼をスーパーに、1年ほど勤めさせた後、ハローワークで別の障害者雇用先を見つけ、転職させました。
3年有期の障害者雇用、待遇もよかった
次の仕事は、3年限定の官公庁関係の障害者枠で、入力業務をしました。幸いなことに、社会保険もあり、ボーナスさえもらいました。
就業中、ちょっとしたトラブルをおこして、母親が呼び出されたことがありました。でも、障害者枠ということで、たいして矯められることもなく、職場の臨機応変な対応のおかげで、その後は、大きな問題もなくすごしました。
3年が経ち、N君は、退職して今にいたります。
彼は、性質がちょっと、げんちゃんに似たところがあって、物事を気にかけず、感じる力が弱く、どこか傲慢なところがあります。
障害者枠で働いて、自信がついたのはいいけれど・・・
官公庁関係に就職している間、彼は、変な自信がついてきたのか、私は、彼に会った時、なんだか学生時代より、どこかすれた感じだと思いました。
そのうち、
年上の知り合いのお姉さんに、
「ねえ、給料どれくらいもらってるの?」
なんて、にやにや、唐突に質問しているのを目撃しました。私は、まるで自分が普通の社会人で、ハンデなしで働いているような感覚でいるんじゃないかと思って、ドン引きしてしまいました。
彼は、3年の職務が終わったら、自分でハローワークに行って、次の障害者雇用を探したようです。
しかし、うまく次の就職先が見つからなかったのか、採用されなかったのか、家でごろごろしていたようです。心配したママは、げんちゃんと同じように自立支援の事業所に通わせるようにしました。
自立支援事業所に行くことになったN君
たまたま希望する就労移行支援の事業所がいっぱいだったので、とりあえず、自立支援になったようです。
ところが、そこに通いだした彼は、
「なんで、こんなとこに行かなきゃいけないの?」
と不満をもらすようになりました。聞いてみると、そこでの学習というか訓練は、彼にとってレベルが低いと感じたようです。買い物だったり、手作業だったり、SST(ソーシャルスキルトレーニング)だったり、彼は気に入らなかったのでしょう。
自分には必要ない、とそこで彼は勝手に結論を出してしまったようです。
朝、彼は、勝手に自ら事業所に電話を入れて、休む、と言ってみたり、事業所の人にも、よく迷惑をかけているようでした。
お母さんは、私に、
「○○には、ちょっと簡単なことばかりで、本人も、なんで今こんなことが僕に必要なのか! と言うんだよね。だから、やめさせようと思うの。」
と言いました。
本当の”できる”とは違うのに、まったく認識していない
私はその一連の話を聞いて、なんかすごく違和感を感じてしまいました。思わずママに、言ってしまいました。
「N君、自分が社会人として、いっぱしくらいに勘違いしているんじゃないの? 会社でトラブル起こした時だって、結局、彼が成長することなく、配置や仕事内容をみなおしてもらっただけだったよね~。自分が何か改善し、トラブルを回避できるようになったわけではなかったじゃない。だいたいそもそも障害者枠なんだから、普通の働き方とは違うでしょ。
自立支援の内容が、自分に合っていないとか偉そうなことを言う以前に、なんか、自分を見つめて、考えさせていかなきゃやばいんじゃない?」
私は、失礼だとは思いましたが、長年の付き合いで、率直に言わせてもらいました。さらに続けて、
「このまま、彼の言うなりにしていたら、そのうち、大きな問題を起こしてくることもありうると思うよ。(実際、ぽちぽち、小さな波風は立っています)だいたい、そういう傲慢さこそ自立支援で矯めていただくようにしないといけないんじゃない?」
正しい自己認知ができない発達障害
私は、将来の彼の立ち位置を考えました。
彼には下に兄弟がいます。もし、この先、こういう傲慢さを残したまま、勘違いさせたまま、突き進めば、母親亡きあと、兄弟がとても迷惑するだろうな~・・・と思いました。彼は長男で、普段も、弟たちに兄貴づらした少し傲慢な態度をとります。いつも、弟たちにサポートさせてるくせに。
通算4年働いたといっても、普通の社会人になれた、と言うのとは違います。実際、彼は、職場でトラブルを起こしていたわけだし・・・
それを、彼は、大きな勘違いをして、自分はできるくらいに思って、上から物を言うわけです。こういう傲慢な自己認知は、発達障害の人には、全員ではないかもしれませんが、大なり小なりあります。とくにげんちゃんタイプは激しい!
小さな視野の自分軸しかないので、正しいメタ認知が難しいのだと思います。
できてると思ってる誤認を修正する必要がある
私の言葉に、ママは、納得して
「ほんとだ、げんママの言うとおりだねー。このまま、あそこはレベルが低いから、やめさせる、なんて、公言したら、勘違いを助長させるね!」
と言いました。
その後、ママは、もう一度、自立支援事業所に相談して、彼が必要とすること、つまり、できていると思っていることが、実はできていないのだと、彼にしっかり落とし込むこと、を課題にしてもらうように頼みました。
具体的には、ただ単純な買い物の練習とかではなく、少しひねりを加えて、何かの予約の交渉だとか、返品の時のやりとりとか、単純な買い物にしても、感じよく相手と会話するとか・・・・本来普通の人ならできていることができてないんだ、と、しっかり彼が認知できるような指導をしてもらうように、話したようです。
普通に”できる”、とは何なのか・・・・ただ”買った”、というだけでは、足りません。
彼の”できてる”、という傲慢をしっかり崩していかなければなりません。出来てる、という間違った認知の上に、人間成長はありません。
母親も、子供と一緒に間違った認知をしている場合も多いと感じます。(私もよく下方修正を余儀なくされます。)
普通のことを、普通に、そして、できれば、よりエレガンスにできていくこと・・・普通の人だって、日々努力している人は努力しているのです。できてる、なんていう現在完了形は、人生にはないのかもです。
人にサポートしてもらいながら、下駄をはかしてもらいながら、社会の暖かさの中でやれていることが、まるで完成形だと傲慢にとらえているなら、今後の人生に邪魔になります。
誤学習を修正するサポーターが成人後もいる
18歳を過ぎたからと、社会に無防備に放逐してしまうのは、げんちゃんのような子には、誤学習を定着してしまうリスクがある、と思っていた私でしたが、一つの具体例だな、と感じました。
N君が自立支援をやめるのであれば、お母さんは、せめて、子供さんの立ち位置と同じ位置に立って、あそこはだめだから、なんて言うことを彼に言うべきではなく、自立支援事業所であれば、何を目的に、どのように指導していくべきか、多少交渉してみた方がいいと思います。
ただやった、というだけでは成長はない
げんちゃんの場合は、心を動かして行動し、自ら自分に成長の圧をかけられる、と言うことがテーマです。ただ漠然とカリキュラムをやれたから、といって、なかなか成長はしません。
どのような場所に所属するにしても、そこが、子供の課題に有益に働くように、しっかりサポートすることが求められる発達君たちです。その方法を模索してみても、目的を果たせない場合、場所を変えるのもしかたのないことかもしれません。変えなければ、ともすると、せっかく成長したものが落とされてしまうことがあるからです。
ほんとに、いつまで手がかかりまくることやら・・・です。
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