げんちゃんがある日、職場に電話をかけて、こう聞いてきました。
「お母さん、定期を買った方がいいの?」
私は、1週間くらいは、毎日学びのために、切符を買って電車に乗ったらいいかな、と思って、定期を買うのをのんびりしていました。そろそろと思っていると、パパが、げんちゃんに、定期の方が安いだろう。調べて買わないと・・・・と言ってくれました。
げんちゃんは、翌日駅から電話をかけてきました。
まあ、げんちゃんらしい・・・・普通の切符のようにあっさり所持金で買えるくらいに思っていたようです。
「げんちゃん、定期って何なの? わかってるの?」
私が冷たく言うと、げんちゃんは、急にトーンダウンして、
「あ、僕、わかってないよね。あ、じゃあ、いらない。買わなくていいね。」
おやおやなんて短絡的・・・自分に負荷がかかることを察知して、放棄した模様です。めんどくさいことはやりたくないげんちゃんですからね・・・
「何言ってるの。定期買わないと、だめですよ。定期が何なのか、定期を買うのと切符と、どっちがお得なのか・・・どのようなものなのか。駅員さんに聞いて調べなさい!」
もちろん、げんちゃんは、スルーして帰ってきます。
その日、S先生に会ったげんちゃんは、定期について、S先生に諮問されました。あらゆる方向から定期とはなぜあるのか・・・ということを推理させられました。
しかし、なかなか”割引”・・・というキーワードが出てきません。
彼は、数字は自分には関係ない、とスルーしてきた人生の歴史がありますから、そもそも、考えるパーツがないのかもしれません。毎日切符を買う手間がはぶける・・・定期とはそういうもの・・・単純な発想をしていたようです。
なぜみんな定期を買うのか・・・
とうとういろんな問答をして、ある程度ぼんやりわかった段階で、げんちゃんは、駅に連れていかれ、駅員さんに聞くようにしむけられました。
たどたどしく聞いて、1か月分、3か月分、6か月分の値段をメモして、申込書といっしょに帰ってきました。
割引率・・・と言う難しいとこまでいきませんが、どれが安いか・・・なんてことを一緒に吟味して、翌日、げんちゃんは、一人で、学校に証明欄を記入してもらい、私にお金をもらって、自分で定期を買うことができました。
そして、なんか、これがちょっとしたターニングポイントになったようです。
そのあたりからげんちゃんの手触りが、かわってきました。
「ねえ、お母さん、○○高校はなんか変なんだよ。学校の休み時間には、生徒が、スマホでゲームしているんだよ。担任の先生も、タブレットでゲームしとったー。おかしいよね~。」
そんなことを言ってきました。
「うん、そうだよ。あそこは、一番下の学校だから、そういうことしてるのよ。あなたも、そこでいっしょになっておなじことをしていたら、落ちますよ。遅刻してもおこってもらえないでしょ。自己責任だから・・・どういう風になりたいかは、自分で選ぶのよ。そういう学校だから。」
私は、突き放すように言いました。するとげんちゃんは、
「いやだ。僕はがんばらないと・・・」
と、いつもとは違うきりっとした目で言いました。
ちょっとびっくりです。
げんちゃんは、向上心がない、と思っていましたが、今まで一生懸命につけてきた正しい基準というものが、結構入っているんだな、と思いました。
心のそこからがんばるぞ~っていうエネルギーにはまだまだ及びませんが、私が手を放し、K先生やS先生が手を放し放置するなら、やばい! と思える感性をつけているんだな、と言うことがわかりました。
おもしろいもので、げんちゃんは、自分で這い上がってこれるところに来たのに、なぜ這い上がらない、と思っていたけれど、それは、こっちが引き上げてくれると甘えていた部分が大きくて、もう誰も、這い上がるために引っ張り上げてはくれないんだ、と感じると、やばい、それは話が違う!
とあせっているようです。
そして、うまいことに、あせってる自分を、学校の早いペースがからめとり、何をどのようにしたらいいかわからないまま、混乱するのではなく、やんわりと、ゆるいペースの環境が彼を包んでくれている。
危機一髪のタイミングだと思います。もっと前のステージで、げんちゃんがこの高校に来るのはやばかったのではないでしょうか。春休みの合宿がなかったら、もしかしたら、タイミングがずれていたのかもしれません。そのあたりは私にもわかりませんが、とにかく、高校の方針と、げんちゃんのステージが、うまいこと、咬んでくれた、そう感じました。
もうできるところに来ているのに、甘えている、逃げている。そう感じていましたが、やっぱりそうだったんだ、と認識しました。
ずる賢いげんちゃんだから、油断は大敵ですが、今まで見なかったげんちゃんが表れていることは確か。
たたみかけるように、新しい環境をあれこれ作ってみようと思っています。
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